FC2ブログ
リレー小説
千葉大学文藝部で行っているリレー小説を公開しています。
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
DATE: 2013/02/12(火)   CATEGORY: テーマ:月
リレー小説 八
2/12更新                 執筆者 ごりごりごりっPさん

 一体どれほどの時間が経っただろう。鳥型の怪物との鮮やかな戦闘で自信を深めたものの、その後は新たな怪物との接触はない。怪物の返り血で染まった宇宙服が未だ強烈な臭いを放っていることを考えるとおそらくまだ数時間しか経っていないのだろうが、その間ずっと壁に挟まれた一本道しか見ていないサトウにとって、それは一週間にも一ヶ月にも感じられた。
しかし、永遠に続くかに思われた道の終焉は突如訪れた。サトウの前に不意打ち気味に現れた、広大な空間。目算で数百メートル四方はあろうかというその広間には、無数の太い支柱が張り巡らされている。
神殿のようだな、とサトウは思った。
「ヒュー、広いねぇサトウさん!」
カジタの歓喜の声を無視して尋ねる。
「デイジーさん、ここは一体どこなんだ?」
「データにありません。が、おそらくここが海の中心部であると推測されます」
 サトウはその言葉に一縷の望みを見出した。海の中心に到達したという事実。自分達の通ってきた道は偶然にも「当たり」の道だったのかもしれない。そう思うと自然に胸の内から安堵感が込み上げてくる。
 ミス・デイジーが遠くで本部へ連絡をしている間、サトウは久しぶりにカジタと二人きりになった。目の前の柱にせっせと目印を刻み込むカジタの背中を見ていると、サトウの心に一つの疑問が浮かぶ。一瞬躊躇するが、十分に打ち解けた今なら聞いてもいいだろうと判断した。
「アンタ、さっきは面白そうだからここに来たって言ったけど、あれ本当は嘘だろ」
 カジタの背中がびくりと震えたが、構わずに続ける。
「アンタ自衛官なんだろ? そんなエリートが命を懸けてまで『冒険』だなんて、悪いが俺は納得できない。しかも大事な銃まで持参してりゃ、尚更な。……俺は金が無いからここに来ざるを得なかった。アンタも、何かあったんじゃないのか?」
 カジタは答えない。重苦しい沈黙の後、彼は取り繕うように大袈裟に笑う。
「はははっ! ……さぁ、どうだろうねサトウさん? だけどさっきも言っただろ? 俺が今ここにいる理由は、このチームのためだ。例え始めの理由が何だったとしてもな」
 サトウは何も言わずに首肯した。何故だろう。金のためなら切り捨てるつもりだった男の一言にこんなにも安心し、気を許してしまう。
「サトウさん、危ないっ!」
 だからこそ、前回は気付いた視界の歪みに気付くことができなかった。
 カジタに突き飛ばされた直後、サトウの眼前に透明な何かが来襲する。衝撃でカジタから託された銃が遥か後方に弾け飛び、同時にカジタのものと思われる真っ赤な液体が床の薄緑と混ざった。

 未だ姿の見えない敵に対し、サトウは考えるよりも先に斬りかかっていた。先手必勝! しかし、結果はサトウの考えている通りにはならなかった。サトウの手に痺れる感覚だけを残し、NASA製の日本刀は切っ先から砕けたのだ。更に、突然現れた黒い鞭がサトウの体を薙ぎ払う。
 踏まれた小枝のような音を立てて吹き飛んだサトウの元に、足音が近づく。マンモスの牙のような爪に、セラミック装甲のような鱗。キメラだ。ただし、前回よりも遥かに巨大な。
キメラは必死に後ずさりするサトウをよそに、一歩、また一歩と距離を詰める。そして終に、怪物はその歩みを止めた。餌を目前にして荒くなった鼻息が顔にかかり、サトウはギュッと目を瞑る。もう逃げられない。
目を閉じたサトウの耳に一発の銃声、続いてキメラの咆哮が轟いた。憤怒を剥き出しにしたキメラがゆっくりと振り返る。サトウも恐る恐る目を開け、そして驚愕した。
キメラの視線のその向こう、右脇腹を抉り取られてもなお、その男は悠然と立っていた。
「カジタ!」
二発目の銃声とともに怪物は標的に向けて猛然と走り出した。
「サ、サトウさん……逃げろっ!」
「でもっ……!」
「彼に従うことを推奨します。体勢を立て直さなくては」
いつの間に戻っていたのか、ミス・デイジーがサトウの言葉を遮る。
「くそっ……! すまん、カジタ!」
 サトウはカジタの銃を拾い上げ小脇に抱えると、渋々デイジーの後に従った。

「早く武器を出してくれ!」
「あいにく、手持ちの武器は私の装備品のみです」
 カジタがいる場所から百メートル程離れた柱の陰から戦況を見つめつつ、ミス・デイジーは抑揚のない声で応える。
「それでいいから! 早く貸してくれ!」
「了承できません」
「なんだと? カジタが殺されそうなんだぞ! 早くしろっ!」
「あの脇腹の傷は致命傷です。おそらくあと……」
 話すだけ無駄だ。サトウはカジタの銃を強く握り締め、立ち上がる。
「その壊れかけの銃一丁でどうするつもりですか?」
ミス・デイジーの言葉はサトウの耳に届かない。自らの決意を確認し、柱の陰から一歩足を踏み出した。その時だった。ピシッ、という不吉な音とともに銃身を走る、一本のひび。希望の弾が、滑り落ちた。

 助けられなかった。自らの不甲斐なさに、自然と頬を熱いものが濡らす。サトウはそれを堰き止めようともせず、音もなく慟哭した。長い長い沈黙ののち、先に口を開いたのはミス・デイジーだった。
「現時刻をもってチームβの離脱、および新チーム結成の任務に移行します」
「……どういう意味だ? まさか、俺を置いていくのか?」
「申し訳ございませんが、これは任務です。その円滑な遂行のために時として、囮が必要となるのは致し方ないことなのです」
 囮……まさか自分に対してこのような言葉が使われる日が来るとは。あまりに現実味のない響きに、サトウは思わず身震いした。それでもミス・デイジーは容赦なく続ける。
「そもそもあなた方は、このミッションのために選ばれた犠牲なのです。」
 犠牲? 選ばれた? 嫌な汗が背中を伝う。
「未知の生物に太刀打ちし得るスキルを持ちながら、このような危険なミッションに参加せざるを得ない弱みを持つ人物。そんな都合の良い人材はそうそう見つからないでしょう。ならば、作ればよいのです」
「どういう意味だ」
「あなたは何故堕落した生活を送るようになったのか、そして何故お金に執着するようになったのか。思い出してみてはいかがでしょうか」
 掲げられた三本の赤旗。困惑の色を浮かべた対戦相手。そして不敵に笑う審判共の顔。一年前の、あの光景が頭をよぎる。まさか……。
「あの決勝戦は、お前らが仕組んだのか?」
「全て日本支部の那須野様の計画です」
 最早サトウは自嘲することしかできなかった。彼の掌の上でいかに華麗な舞を披露したのか考えるだけで、乾いた笑いが込み上げてくる。
「……二人で助かる方法は無いのか?」
「シミュレーションα、二名で脱出を試みる場合。二名の内どちらか、或いは両名共に脱出できる可能性7.53%」
「シミュレーションβ、ミスタ・サトウを囮として私のみ脱出を試みる場合。緊急脱出用プログラム・エアウォークが使用可能となり、私の脱出成功率は71.84%、対して……」
「もういい、やめてくれ」
 耐え切れず、話を断ち切る。自分が死ぬ確率なんて聞きたくもない。ただ、サトウにはもう一つだけ確認すべきことがあった。
「カジタも……弱みを握られていたのか?」
 ミス・デイジーは無言で首を縦に振った。やはりそうだったのか……。
「いいのか? こんな重大な秘密を俺に漏らして」
「現在は情報にロックがされていません。本部の情けでしょう。何故なら……シミュレーションβにおけるあなたの『機能停止』確率は、99.92%ですから」
 そう言うと、ミス・デイジーは腰から小型の小銃を引き抜き、真上の天井を打ちぬいた。透明な膜が溶け、瓦礫が轟音と共に崩れ落ちる。この瞬間、こちらの居場所はあのキメラに知れただろう。
ミス・デイジーは最後にもう一度サトウの方に向き直る。
「先程のキメラの他にもう6体、こちらに向かってくる未確認物体があります。……ご武運を」
 そう告げる顔がサトウにはほんの少しだけ、悲しそうな表情に見えた気がした。機械にまで同情され、サトウは自分がつくづく運が無い男なのだなと思い知らされる。
 いや、違うな。これはサトウの心の弱さが招いたことなのだ。全てを運任せにし都合の悪いことから逃げ続けた、自身の心の。
 ミス・デイジーが腰を深く落とし、天井に向けて跳躍した途端、足の裏が青白く発光した。そして彼女はそのままゆっくりと上昇し、穴の向こうへと消えて行った。
 獣が喉を鳴らす音が聞こえた。周囲を見渡せばいつの間にか先程のキメラ、さらに異形の怪物たちがサトウを見据えている。
「ははは……」
どうやらスーカンツでも出ない限り、生きてこの勝負からは上がれないようだ。つまり、ここにはもう一縷の望みも無い。
月の海の中心。金のためなら何でもすると誓った男は、仲間も武器も全て失い、たった一人になった。



←前へ              目次へ             次へ→     
スポンサーサイト

コメントの投稿

 管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
Copyright © リレー小説. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。