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リレー小説
千葉大学文藝部で行っているリレー小説を公開しています。
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DATE: 2012/12/01(土)   CATEGORY: テーマ:月
リレー小説 一
                        執筆者 ぽんかんさん


「ははは……」
 仲間とはぐれた。武器も失った。そして周囲を異形の怪物に包囲された今、ナイン・サトウにできることは、死を覚悟することか、現実逃避して笑うことくらいだった。
「(どうして、こんなことになったんだろうな……)」
 現実逃避に失敗し、次に始めたのは後悔だ。そうしたら、ここに至る経緯、すなわち最近の記憶が走馬灯のように頭をめぐった。いや、本当に走馬灯なのかもしれない。数瞬後に死が迫った状況だ。少しくらいフライングして走馬灯が見えてもおかしくないだ。
「(俺はただ……金が欲しかっただけなのに)」
 ナインにとっては、金こそがすべてだった。金を手に入れるためには完全に黒になること――犯罪――以外は何だってできた。生きるために、食べるために。ただ、ただ金だけを求めた。たとえ危険な仕事とわかっていても、それで大金が手に入るなら喜んで引き受ける。その結果、命をつなぐためにとった行動が命を捨てることになったわけだが、そんな皮肉も今なら笑える。
「*#$&+@~~~!」
 周囲の化け物の中で、一際目立ったリーダー格の咆哮。その音波はナインの鼓膜を突き破らんばかりに叩き、その衝撃と恐怖で脳が震える。そしてそれが合図になったかのように、怪物たちが一斉にナインに向かって動き始めた。
「(頼むよ神様……こんな人生だったんだ。せめて最後の眠りくらい、幸せな夢を見せさてくれよな)」
 ついに死を受け入れ、ナインは静かに瞳を閉じた。

            *
「ロン」
 運とは、例えれば月のようなものである。月のように満ち欠けするし、運はツキとも言い換えられるからだ。これは佐藤九號が一か月前に思いついて以来、誰かにドヤ顔で語れる日まで温めている持論だ。かの日、スロットでとんでもない大当たりをした。そのときがちょうど満月だったという単純なきっかけだ。ちなみに、その約二週間後に競馬で大出費をしたことでこの持論も裏付けがとれた。
 そして今夜は満月。月のように満ち欠けする運は、今日が最高潮。九號は自らのシステムに従って大胆な行動にでた。普段はリスキーすぎて行かない、レートが高すぎる賭け麻雀。残金は少なかったが、今日の運ならば必ず勝てると踏んで、臨んだ一局。
「三二〇〇〇だ」
 なんせ今夜の運は最高潮。東一局から役満なんて軽い。
「あーあ、いきなりぶっ飛んじまったなぁ、兄ちゃんよぉ」
なればこそ、それが対面の人間の台詞だとは信じられなかった。
「クク……おいおい、ハコになったときの代金はいくらだったかなぁ?」
「……」
「おんやぁ? 持ち金なくなったじゃねぇか。うちは借金制度は設けてないんでなぁ……あばよ、兄ちゃん」
 目の前が、真っ暗になった。

「寒い……」
 八月の東京。今日の最高気温は三〇度を超えており、午後九時の現在でも寒いなどと言う人間はごくわずかだろう。そう、佐藤九號のように、懐も精神も冷え切った人間くらいだ。
「(俺が、何か悪いことしたか……?)」
 佐藤九號、二三歳独身。大学卒業後、職に就くことなく、ギャンブルや賭け麻雀で生計をなんとか立てていたが、今回の大敗で全財産を失った。脛をかじるための父親は去年他界した。母親は父と離婚して家を出て以来会っていない。連絡先も知らない。
「(どう、しよう……)」
 九號は悲嘆にくれながら、いっそ犯罪でもして逮捕されれば牢屋の中で食・住には困らないのでは、とまで考えながら帰途についていた。何よりも、今はさっさと眠りにつきたかった。夢ならそれで醒めるはずだ。
「こんばんは、佐藤さん」
 人気のない路地を歩いていると、聞き覚えのない声で後ろから呼ばれた。この路地、この時間帯に自分以外の人間がいることに驚きながら振り返った。
「誰です……かっ!?」
 振り返った時、視界に入ったのは日本刀を自分に向けて振り下ろす男。九號は間一髪で身をそらし、なんとか回避した。
 だが男は無言で刃をふるい続けた。九號は巧みな足さばきでよけ続けた。大学で剣道部だった九號の体は、この突然の危機に対応するには奇跡的に十分なスペックを誇っていた。
「ふぅ……さすがですね」
 斬撃の嵐が、突然ぴたりと止み、男は語り始めた。
「まずいきなり襲ったことをお詫びします。一応言っておきますが、この日本刀は特殊なホログラフでそう見せているだけで実際はただの竹刀です」
 二十二世紀も後半。科学の進歩はこんなことまで可能にした。
「なんなんだよ、あんた」
「申し遅れました。私はNASA日本支部の那須野と申します。大学時代のあなたの剣道の腕は健在なようなので、その上であなたにお願いがあって参りました。全人類のために」
 ちなみに九號はインカレ準優勝という輝かしい経歴を持つ。決勝では審判の不当な判断で負けたが、実力では勝っていた。(公にはなっていないが、審判への賄賂があったとされており、九號が金に固執するようになった要因の一つである)
「なんだよ、俺は人の頼みなんて聞く気分じゃ……」
「報酬は多額ですよ」
「言ってみろ」
 即答である。
「NASAが月に住居区を作ろうとしているのはご存じで?」
「あぁ。テレビで見たことがある。科学も進歩したもんだな」
「ですが月には海と呼ばれる謎の空間があり、それを取り除かなければ住居区が作れません」
 その後長々と那須野は語った。海から帰還した隊員の話によると、海の中は別次元の迷宮になっており、深部にある宝石のようなものを手にすれば海は消える。だが海の中は罠や見たこともない生物が潜んでおり、危険もある。その生物は外に出てくることもあり、そのせいで安心して住居区が作れないのだ。
「NASA独自の技術で生み出した武器があるので、生物の件は特に心配無用です。相応の反射神経や運動能力が必要ですが……あなたなら扱えるでしょう」
「だが……」
「引き受けて頂ければ、前金として、任務達成報酬に比べるとわずかですが、一〇〇万円お支払いします」
「やってやる」
 即答である。
「ありがとうございます。ではこれから支部に来てください。そこで前金をお支払いし、細かい手続きをします」
 こうして二週間後、ナイン・サトウ(NASA表記)は十数人の隊員とともに、危難の海と呼ばれる月の海に旅立つことになった。全人類のためとか、そんな大義はナインにはない。金のためだ。



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