FC2ブログ
リレー小説
千葉大学文藝部で行っているリレー小説を公開しています。
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
DATE: 2012/12/26(水)   CATEGORY: テーマ:月
リレー小説 五
12/26更新                      執筆者 山下さん

 ……早速おいでなすった! そう認識するが否や、キメラは熊の顔を歪ませ、獣の脚を振りかざした。凶悪なカーブを描く爪。ゆうに1mの長さはありそうだ。カジタを構っている余裕は失われた。サトウは横に転がって直撃を避け、腰に佩いていた日本刀を凪ぐように抜いた。
 続けさまに銃弾の嵐がキメラに浴びせられた。キメラは極彩色の翼でそれを受ける。横目で左方を確認した。カジタだ。先ほどまでの人の良さそうな表情とは正反対の、この上なく歪んだ笑みを浮かんでいる。カジタもまた、キメラの爪と同じくらいの長さの銃を構えていた。軍用のサブマシンガンだ。銃に詳しくないからそれくらいしか判らない。
「すっげ、動きやすっ! サトウさんやらないの?」
 軽口を叩いてはサブマシンガンを斉射する。返事をすることもなく、カジタも思い切って日本刀を振るった。木刀よりも重いはずだったのに、刀は嘘のように軽かった。刃のきらめきに紅い目を光らせ、キメラがふたたび前足を払う。
「くっ!」
 こんなデカブツ相手に、ちっぽけな日本刀で敵うのだろうか? キメラの姿を見た瞬間からのしかかっていた不安は、氷解した。刀の銀色の閃きで、キメラの爪がすぱりと切り落とされる。咆哮! ありもしない空気が揺れるほどの雄叫びにもひるまず、カジタが銃弾をばらまく。翼から羽根が散り、血が流れ、辺りをしぶきで汚す。
「サトウさん、ぼやぼやしてると俺がコイツ捕っちゃうよ?!」
 浮ついた調子でカジタが叫んだ。サトウも乗せられるように重く踏みこみ、獣の額を真正面から狙う。袈裟切り! 威力を求め、全体重を乗せて振り抜いた。こいつが獣なら、ひるむはずだ。相手は剣道の試合で向き合うような紳士的なヤツじゃない!
 岩を砕くほどの手ごたえだった。キメラはのけぞるが、もう片方の足が反対からサトウを狙った。すかさず援護射撃! サトウは思い切り後ろに飛びのいた。獣から一息に距離をとる。カジタの援護に獣は唸り、額から、翼から、血を流す。怒りが充填され、キメラは大きく口を開いた。
「サトウさん避けろ!」
 カジタの声にサトウは再び横受け身をとった。遅れて、戦車なみの顔が今まで居た場所に被さる。血と唾液にまみれた牙が薄緑の地に突き立っていた。弾けるように起きあがり、目の前に伏せられた翼の付け根に斬りつける。サトウの身体までもが嘘のように軽かった。ブゥン、とかすかな振動音。切れ味も抜群だった。カジタが口笛を吹く。
「いける!」
 山脈のような翼の根が、すぱりと赤く割れた。溶岩が湧くように血塊が噴き出る。傷口に銃弾の雨が降る。痛みでキメラは怒り狂う。ずるり、と蛇のように身動きして、こちらを正面に見据える。カジタもサトウの後ろへと飛ぶように滑り込んできた。
「カジタ、援護してくれ!」
「Roger!」
 愉しげな返事と共に、獣の瞳めがけて銃弾が飛んでいく。キメラは顎を引き、それに耐えている。サトウは走り出した。いけるかもしれない。いけなければ散るだけだ! 見も知らぬ異世界の生物に対して押していることが、サトウの精神を高揚させていた。日本刀を大きく構え、振りかぶる。ドタマを斜めに斬り落とす!
 ジュウッと肉の焼ける音がした。キメラの首に刀が半分ほど食い込んでいた。紅い瞳がギロリとサトウを認めた。まずい! サトウは柄から手を離し、後ろへ飛びずさった。何メートルも宙に浮き、衝撃なく床へと着地する。最期の馬鹿力で、キメラは翼を振り、二人にのろのろと背を向けた。
「逃、が、す、かぁあああああっ!」
 サトウが嬉しそうに吠え、突撃する。手には銃剣が握られていた。それを待たずに、黒い鞭が二人を払った。
「ぐっ……!?」
 逃げる間もなかった。サトウは鉄の振り子でなぎ倒される。キメラが鱗の尾をしならせ、したたかに打ったのだ。宇宙服は嘘のように丈夫だったが、頭を思いきり地に落とされ、目の前が一瞬暗くなる。ヘッドセットもくるくると回って滑っていった。かすむ目をなんとかこじあけると、カジタも前方で銃剣を杖にし、やっとのことで立ち上がっている。こちらは奴に武器を持っていかれてしまった。逃げるしかない、そう思った。
「ドゥユーリードミー? 標的損壊度は80%、援護を希望しますか?」
 無機質な女の声が響き渡った。キメラはゆるりと尾をくねらせ、のっそりと振り向いてきた。血まみれの首にはサトウの刀がまだ残っている。声が続ける。
「中性個体A及びBの損壊度は60%、しかし双方有効武器ロスト、危険域と判断、ロック解除、援護いたします! スリー、ツー、ワン……」
「カジタ、ふせろ!」
 サトウは声を限りに叫んだ。再び天井の上から透明な膜が盛り上がり、金の光とともに槍を構えた何かが急降下してくる。獣の頸椎を狙っている。サトウの位置からは光が獣を真上からかち割るのがはっきりと見えた。ズゥン、と巨体が沈む。蒸発するようにとりどりの色が消えていき、サトウの刀だけがからんと音を立てて残った。立っていたのは軍服に眼鏡をかけた女だった。
「あ、あんた……サンキュー……」
 カジタがおそるおそる近寄っていく。女はがっしりしたスピアを握り直した。金髪を高く結いあげ、冷たい青い瞳が二人を捉える。身にまとうアーミー柄軍服は、この単調な緑の空間ではその用をまったくなしていない。カジタは女に向けて血にまみれた手を差し出した。
「サンキュー、マドモアゼル……ヤバかった、あんたもNASAに云われたの?」
「私はミス・デイジー。NASA製の無人戦闘機です。製造番号は1986-DSMR2、ご無事ですか?」
「無事っちゃ無事なんだけどね、最初からキツイの来たなぁ……アンタNASA製か。ロボットか何かか?」
「人工知能搭載型無人戦闘機です。こちらの刀はどなたのものでしょうか」
「……俺のだ、すまん」
 サトウはヘッドセットを拾い上げ、おそるおそる女に近寄った。ミス・デイジーは剣をぶっきらぼうに突き返した。刃の部分を向けられて、サトウはぎょっとする。
「お返しいたします。装備は無駄になさらぬよう」
「その返し方はないだろ」
 腰の鞘に日本刀を戻しつつ、サトウはくさした。ミス・デイジーは頭を下げる。
「失礼しました。国籍は……双方日本。ご希望なら、日本の礼節をデータベースよりダウンロード致します。予想時間は2880秒」
「……いらんっしょ。それより、聞きたいことが色々あんだけど……サトウさんもあるよな?」
 カジタが先ほどまでのふざけた態度から一変し、サトウを見つめた。いかにも東洋人的な一重の目つきが鋭くなる。サトウはうなずいた。
「どんな質問でもお受けいたします。ただし機密事項に関わることについてはロックがかかっておりますことをご了解ください」
 丁寧に敬礼したミス・デイジーに、カジタが尋ねる。
「ここって何なの?」
「ロックされている情報です」
「あんたは何のためにネーチャン型なんだ?」
「視認の際の便宜のためです。『海』に漂着する戦士に女性はほとんどおりません」
「ごついオヤジよりはいいか……目の保養にもなるしな」
 サトウも問いかける。
「この武器はただの日本刀やマシンガンじゃないな?」
「イエス、私のスピア含め、近接格闘型武器はおそらく全て超音波振動剣です。見た目及び性能は元素材に近づけてありますが、重量、耐久性、および威力の面で向上がなされております。説明書をダウンロード致しますか?」
「……説明書なんてあるのか、後で頼む」
 カジタも負けじと口をはさんだ。
「マシンガンはどーなってんだ? 運よく弾切れなかったけど」
「さすがに無限値を取るわけにはいかないために弾は切れます。M9ですね。グリップ下部の赤いボタンを押せば300秒後に1000追加されます。ただし時空間の調整が必要ですし、未だテスト状態の機能ですので、装備があれば予備を携行いただくのが良いかと思われます」
「NASAの技術でも弾切れはどうしようもねーか」
「イエス。本部サーバーにフィードバックしておきます」
 ミス・デイジーは無表情のまま答えた。サトウは最期の質問をする。
「それより、アンタみたいなのが居るなら、俺たちは必要ないだろう。なぜ呼ばれてるんだ」
「ロックされている情報です」
 ミス・デイジーはにこりともせずに繰り返した。カジタが鼻白む。
「肝心なところが判んないんじゃしょうがねーじゃん」
「質問は以上ですか? 僭越ながらこの先行動を共にさせていただきます。私の随伴していたグループμは消滅いたしましたので」
「消滅? どういうことだよ」
「消滅です。耐久期間は七日」
 血も涙も情もない響きに、サトウは息を呑んだ。カジタも口ごもりつつ確かめる。
「アンタが前に一緒にいた奴らは……なんだ、全滅したってことか?」
「イエス。……新グループβ結成。お二人を新たなグループメンバーとして追加いたします。ミスタ・サトウ、ミスタ・カジタ、宜しくお願いします」
 サトウはカジタを見た。カジタはあきれて笑っていた。百万円という胡散臭い契約。危険という以外は何も知らされず、トラブル続きの道中。前置きなしの戦闘への突入。人が敵うとは思えないほどの怪物。そして七日間で「消滅」。全ての状況が嫌な予感を強めていた。ミス・デイジーが背筋をぴんと伸ばしたまま、歩き始めた。
「進みましょう」
 カジタはなぜか笑みをうかべて女を追った。『雑念は剣筋を鈍らせる……』。三良坂の警告が耳の奥にこだました。サトウは声を呑みこみ、二人に続いた。



←前の話              目次へ              次の話→
スポンサーサイト

コメントの投稿

 管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
Copyright © リレー小説. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。